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夜が響く [本]
ここ数日の暖かさは、3月としては尋常ではない。
歩いていると汗ばんでくる。
歩いていると汗ばんでくる。
この暖かさに驚いたのか、庭では、
ボケの花がびっくりしたように一輪咲いた。
梅の花やクリスマスローズも頑張って咲き続け、
シロバナジンチョウゲが香りを振りまいている。
私も陽気に誘われて、哲学の道に散歩に出かけた。
桜のつぼみが大きく膨らんでいる。
来週あたり開花するのではと思う。
道ばたに於かれた椅子が鎖でつながれている。
こうしなければ、持っていかれるのだろうか?
少し切ない風景である。
先日、大学時代の友人秋野氏から詩集「夜が響く」が届いた。
彼女の手にかかると小さな生き物が大きな存在となって
読者に迫ってくるから不思議である。
ふと「虫めずる姫君」という言葉が頭に浮かんだ。
が、私に深い印象を残したのは
「きっと、それは話せないのだ」という詩である。
戦争から帰ってきた父親のことを歌っているのであるが
戦地の話をしない父親が70歳をかなりすぎてから
「戦争は人殺しとレイプなのだ」と怒りをはき出したという。
私の父親も招集された。
通信兵だったとかで、モールス信号には詳しかった。
行軍中は、他の兵士と同じ装備の上に通信機を担いで行かなければならず
大変苦労をしたらしいが、戦闘が始まれば司令官の傍で安全だったという。
それで父は生きて帰れたのかも知れない。
しかし、私の父もそのほかの軍隊の話や戦場の有り様は一切口にしなかった。
私の父もきっとそれは話せなかったのだと思う。
が、たまに父が呆然とした様子で椅子に座っている姿を目にした事がある。
その時、父の指だけがテーブルを叩き、モールス信号を打っていたのを覚えている。
戦争にかり出されると言うことは、
家族にも話せないものを抱え込まされるのであろう。
確かに戦争とは、人殺し以外の何もでもないのだ。