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ある夜に突然 [高齢者天国]

 
峠の南側では、桜が満開だというのに、ここでは、まだつぼみのままである。

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日没は四時前後で、五時には、もう暗くなる。

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カフェ”星ふる館”は六時で閉店する。閉店と共に外灯は消す。

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すると七百坪の庭は、闇に包まれ、寒風が冬枯れの木立をゆする。

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谷間の空は、満天の星がきらめき、百メートルほど向こうの杉林の中にある国道では、
時折、車のライトが、ひとときだけ谷を明るく照らし出して通り過ぎていく。
風の音以外はなにも聞こえない。

そんな谷間の山里の一軒家であるカフェでは、薪ストーブから薪のはじける音が、
パチパチと聞こえるだけである。

カフェはすでに閉店し、オーナー山野夫妻は、二人だけの静かな夕食を初めていた。
山野夫妻は、リタイヤして、五年ほど前から、この山里にカフェを開いて住んでいる。
田舎暮らしが長年の夢でも会ったのだ。

ところが突然、けたたましくドアをノックする音が響き渡った。
静かに二人で迎えていた夕食時の雰囲気が一度に破られて、
二人はぎょっとして、食事の手を止めた。
やがて彼が立ち上がり、広いフロアを歩いて行きドアを開けた。
暗闇の中に老人が一人立っていた。

男は晩飯を食べに来たというのだ。
男の顔をじっと見ていた彼には、見覚えがある顔に思えた。
やがて男は、彼をを無視するかのように、その横をする抜け、
ずかずかと店内に入ってきて、彼の妻に向かって、
残り物でも良いので用意してくれとせがむのである。
彼女もびっくりした面持ちで、
「そんな、メニューにもないものを出せません。」と断った。
が、男はあきらめずに「なにかあるやろ」と厚かましくせがんでいる。

男に無視されていた彼は、少しむっとした表情で男の正面に立って
「すでに閉店してます。注文はお受けできません。営業しているところに行ってください!」と
言葉に力を込めて男の目を見つめて言った。
男は一瞬ひるんだ様子で「当てにしてきたのに・・・・」と残念そうに帰って行った。

彼は男の軽自動車が国道に出るまで見送っていた。
男を見送りながら、かって一度だけその男が客として来たことがあるのを思いだした。
七十歳前後のその男は、同年配の女性とやって来たのであるが、
二人の振る舞いを見ていると、どう見ても夫婦ではない。
男の落ち着かない不自然な言動が妙に印象に残っていた。

翌朝、開店と同時に川向かいの集落の山岡さんが橋を渡って来店した。
山岡さんは、カフェを始めたときからのお付き合いで、常連のお客さんで町内会長でもある。
で、昨夜の出来事を話していたら、
「ああ、それは川田の親父に違いない。あいつはしょうのない奴で、しょっちゅう車で
そこら中走り回って、女アサリばかりしてる。内の女房までデイトに誘いやがった。」
「えっ、奥さんもデートしたんですか?」
「とんでもない、女房はぼろくそにいって断ったと言ってた。」と笑いながらいう。

聞くところによれば川田さんは、峠の向こうの集落に住んでいて、
奥さんは早くに亡くされ、今は一人暮らしだという。
川田さんのことは、この地域では知らない人はないというのだ。
「きっと寂しいんでしょうね。」というと
山岡さんは吐き捨てるように
「とんでもない、いい歳して色ボケしてるだけや!」
とけんもほろろ。
「でも、この前ご婦人と一緒に来店してましたよ。」
「隣町の育代さんだろ。」
「ご存じなんですか?」
「この前あったときに彼女が言ってた。
何度もデートをせがむのでかわいそうに思って付き合ってやったと言ってた。
あれも今じゃ独り者だからなあ。嫁はんが元気なときは堅物だったんだがなあ」
「で、どうでしたって?」
「全然面白くなかったと言ってた。」
「ますます、かわいそうですね。」
「まあ、しょうがない。悪い奴ではないが・・・・」と今度はしんみりと言う。

「今度また来たら、夕食ぐらいサービスしときますよ」と妻が言った。
「ああ、そうしてくれたらあいつも喜ぶだろう。すまんなあ、迷惑かけて」
と言って山岡さんは帰って行った。

 彼は、山岡さんを見送りながら、ふと、中島みゆきの「異国」という歌の歌詞が頭に浮かんだ。

歌詞に曰く
『悪口ひとつも自慢のように ふるさとの話はあたたかい 忘れたふりを装いながらも 
靴をぬぐ場所があけてある ふるさと』

この地域でも、みんな子供の頃からの知り合いなのだ。
山里のふるさとの良き面だと思った。澄み渡った空から吹く風が頬に気持ちよかった。


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コメント 8

斗夢

情景が浮かぶ長編小説の趣!
by 斗夢 (2016-08-11 18:39) 

路渡カッパ

フィクション?ドキュメンタリーでしょうか・・・(^_^ゞ
「ふるさとの話はあたたかい」そんなふるさとの人々の感情がにじみ出てますね♪
帰省はされないのですか・・・(⌒-⌒)ニコニコ
by 路渡カッパ (2016-08-12 10:22) 

風の友

斗夢さんへ
うれしいお言葉ありがとう!
by 風の友 (2016-08-12 13:40) 

風の友

路渡カッパさんへ
半分フィクション、半分ドキュメンタリー(笑)
今年は帰省はあきらめて、のんびりしてますが・・・・
暑いですね。
by 風の友 (2016-08-12 13:42) 

でんさん

いいですね~。最初寂しかったのに、最後はなんだかほっこりします。
by でんさん (2016-08-13 09:36) 

風の友

でんさんさんへ
ありがとう。励まされました。
by 風の友 (2016-08-13 18:14) 

名犬ゴン太の兄

こういう人間関係も含めてのふるさとなんでしょうね。
いいですねぇ。
by 名犬ゴン太の兄 (2016-08-16 01:35) 

風の友

名犬ゴン太の兄さんへ
幼友達は、いくつになっても、友達意識があるのでしょうね。
自分の仲間という意識がふるさとを支えてるのだと思います。
by 風の友 (2016-08-18 13:21) 

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