父の書斎で、発見した本を自分の部屋で心を振るわせて読んだ記憶は、未だに消えない。
この本は、昭和27年9月に発行されたもので、
父が買った日は昭和28年6月25日と書かれている。
僕が、この本を手にしたのは、中学二年生の春である。

以来、表紙の絵と共に、ヘッセの『郷愁』は私の心の故郷のようになった。
これまで何十回読み返したかわからない。
当時、僕は初恋を経験し、人を愛すことの素晴らしさを知ったけど
それだけにその終わりほど寂しいものはなかった。

というのも、中学に入学した初夏のある日、中学三年生の女子に声をかけられた。
それが初恋の始まりだった。
そして、翌年彼女は、卒業し、僕は取り残された!
輝いて見えた中学校の校舎が、彼女と共に消えて、沈黙した。

そんな心境の時に出会った事もあったのか、以来、この作品と絵は生涯の友となった。



そう、僕の神話もここから始まったのだ!
そして半世紀以上の時が流れたが、今も生きている。
僕の中に生きている。
第1章に書かれた風景は、僕の心の風景となったのだ。